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2021年06月21日 TALK
本日はよろしくお願いいたします。はじめに、柴田さんのこれまでのご経歴をお聞かせいただけますか。
柴田
1988年に名古屋でデザイン建築・設計事務所のASO設計を開設しまして、2001 年からはASO STYLE という名前で、インダストリアルデザインと建築プロデュースをスタートさせました。テレビ番組の『大改造!!劇的ビフォーアフター』には第18回目から300回記念を含めて20回以上出演させてもらいました。前後して大学の講師やセミナーで建築を身近に感じてもらうような立ち位置で、未来に元気とか夢を持ってもらえるような建築・物・環境を提案してきました。
私たちの出会いは2017年の秋だったと思います。先ほど柴田さんがおっしゃった『ビフォーアフター』をたまたま見ていまして、そのときの匠であった柴田さんが、木製パレットをすごく機能的にインテリアや家具として、お部屋のいたるところでアレンジして楽しく使用されていたのにすごく驚きました。パレットの可能性を教えていただけた嬉しさを直接お礼したいと思ってメールをさせていただいたのがきっかけでしたね。
柴田
突然連絡が来てびっくりしましたが、そういうのはすごく僕らは元気になるし、うれしいものです。ありがとうございました。あれは確か、お笑い芸人のえとうくんの家で、お金をとにかくかけない家だったんですね。建築費が200万円ぐらいしかないような家で、家具とか床を作ろうとしても、その素材がない。普段のこの番組では、せめてお父さんの大事にしてきた板があって使った、というようなことはありますが、その板もない!「さあ、どうすんだよ!(笑)」っていう時に、「木製のパレットは思ったより安くて、感じいいぞ」といろいろ調べている中で分かって。加工ものこぎりでも切れるし、ビスなどで接合もできる、色だって自由に塗れる。だから、館野さんが感動してくれたような、ワインのラックみたいな細かな細工も出来たし、テーブルや収納が出来ました。僕がやっていて面白いなと思ったのは、この家は平屋だったのですが、中二階のような部屋の床をパレットで作ったんですよ。既存の梁にパレットを渡しただけなんだけど、それがすごく強くてしっかりしてる、照明も仕込んだところ、「これって美しいし、素敵な存在感だ!何でこれをみんな使わないのかな?」とスタッフと話し合っていたのを記憶しています。
弊社の木製パレットを使っていただいた赤池教会について、お聞かせいただけますか。
柴田
赤池教会は名古風市緑区に2020年のクリスマスに完成した建物です。区画整理地内の敷地確保交渉から始まって、スタートから3年半かかりました。僕らが行う建築は長い時間かかることが多いのですが、これは特に長くかかりました。教会は献金等で成り立っていて、年金者からの献金も多く無駄な建築はできない。1円の無駄もできない大切なお金で成り立っているのをひしひしと感じていました。僕の粘りも通じて土地を大きく確保できた分、使用できる建築予算からくる規模では建物は小さくなり、ぼつんとした感じになってしまう。教会は人が集る場、屋外にも用途を設け人が集まり輪が広がるような構成にしました。ようするに建物の本体とは別に腕を広げたような塀などを構成することによって、伸びやかな広がり感を求めたい。それを今回はパレットで表現したらどうかなと思って、舘野さんに相談しました。デザインしたパレットを使うことで、結果としては予想以上に美しくて品のある建物になりました。この教会は駅と大型ショッピングモールとの間にあり、人がよく通る場所にあることから、たくさんの人が教会を訪ねてくれるようになったんです。教会っていうのは、扉に鍵もかけず来るもの拒まみません。もし立派な塀とかを作ったら大変なコストにもなったし、なにより閉鎖的にもなってしまったかもしれません。隙間が美しい風と光が抜ける木製パレットを使ったおかげで、すごく良い表情と宗教の精神が出せたと思っています。
利用者の方々の反応はいかがでしたか?
柴田
シンプルで長持ちする美しさという目標は、メンテナンスが少なくて済むという要望にも近く、屋外に木を使うというのは反感を買うかなと思っていました。パレットは外部のひさしの下などに多くを使っていますが、雨風に当たって腐ってしまう場所もあり、痛みそうと思われるかと思ったんです。でも、実際にはそういうかわいそう的な印象や腐りそうな感覚はまったくないです。ただし、いくら納まりに気をつけたといっても、10年後となったらさすがに傷むこともありましょう、そんな時のために「1枚1枚だけを取り外せて、また設置できるシステム」を仕組んだ塀にしました。全部を壊すのではなく、傷んだパレットパネルだけを交換します。無駄を無くした中で建築を長持ちさせることを、パレットの循環システムからヒントを得て行いました。
柴田さんからのこ要望に対して、今までは私たちも物流のパレットだけを作っていたので、細部にわたる人が触れて危なくないようにサンダーをかけるとか、細かい部分の詳細を詰めるのは工場のほうでは今までやったことがないことでした。みんなで考えたり相談したりということに時間はかかりましたが、実際にでき上がったものを見せていただいたときに、美しい建築のパレット参加をやらせていただいてよかったなと思いました。
柴田
建築用パレットの第一号だったのですか?
いえ、屋内での実績はありますが、屋外というのが今回初めてでした。
柴田
屋外というのは慎重になりますね。例えばパレットっていうのは釘の穴がめり込んでますよね。屋外に設置するとこういうところから水が入ると痛みやすい、だから今回はすべてパテで埋めて処理してもらうまでをSATO COMPANY さんでやってもらいました。
釘穴なんかも今までは奥に入ったほうがいいっていう感覚だったんですけど、建築的には奥に入らずにできればフラットな状態で、ということもあるのですね。奥に入れば、その分パテを使って入れて、埋め込んだ後にもう一度サンダーをかけるっていう丁寧な処理をしました。その一つ一つのに対する処理から全体の美しさに繋がっていくのは嬉しい感動でした。
柴田
その都度その用途によって、、例えば机を作るときや、店舗の壁に貼る場合など、僕らが求めるデザイン目標イコール素材の活かし方は常に違うんですよね。それを前向きに1 個1個丁寧にずっとSATO COMPANY さんは付き合ってくれている。それがいろんな形で実ってきているのかなと思いますね。
素材によってクリエイティブな欲求が喚起されることはありますか。
柴田
あります。僕らはいろんなものにインスパイアされていくわけです。設計していくというのはさまざまな素材を選ぶことにもなりますが、そのベーすとなるのに土地から記憶や施主の気持ちがあります。そして社会の流れや美しさの基準があり、それを絡めてイメージが膨らんでいきます。時代の波も素材を選ぶときの重要な要素です、補助金が下りるだとか、そういうのも大きい理由でもあるけど、やっばり大きなムーブメントが木造、木質化というものになろうとしているときに、冷たい、悲しいような素材を多用しようとはしない。その使う木はより自然な天然の木を使いたい。そんな時にプリント写真の木を使った材料で「木のようなふりをしたくない」と思ってしまいます。天然の木にはものすこい力があると思ってるんですよ。そのやさしさと、そのパワー、その匂いとか、、、それらは僕らのクリエイティブな力に火が着くわけです。これから先は、こういう天然の木をテーマにした材料を僕はこれから望んでいるし、それを使った表現で社会と会話したいです。本物の木って、何十万、何百万円というイメージがあるかもしれないですが、パレットだったら安価です。もっと自分らしい家を作りたいに答えれると思っています。
柴田
一方、天然の木というのはいろんな問題を抱えているんじゃないかとも思いますが、いかがでしょうか?
弊社は、自然を資源としている会社なので、自然の豊かさを広げながら、人がよりよい住みよい社会に貢献するということと、環境保全に貢献することを理念に掲げております。物流のパレットを制作する上で調達していた材は、建築では使われない材などを仕入れていました。無駄のない製材端材を使用して、またそれをグリーン材といって建築材のように加工するKD材ではない材を使っていますので、天然の中の天然ではあります。また国産材の間伐をしなきゃいけない材っていうのがあって、その積極的な利用をしていくことをしています。また日本の森で今は収穫期を迎えている木がたくさんあって、そういった木を積極的に活用する手助けをしたいなっていうこともあります。どうしても収穫期を迎えている木はCO2 を吸収しなくなってしまうんですね。切って使ってまた植えていくっていう作業はしなくてはなりません。最終的には若い木を植えてたっぷりCO2 を吸収してもらうことが、持続可能な森林保護だったり育成につながり、それが地球温暖化防止にもつながるっていうこともあって、国産材を積極的に取り入れております。
柴田
短い材や間伐材、それらはグリーン材ということで、普通の建築の材料よりも間違いなく安い天然の木が僕らに届く可能性がある。これがパレットパネルとなりシステム的に建築できる!ここがまったく違いますね。その上で木を伐採する人や、木を扱ってきた人の気持ちを感じながら、こうした仕事をしている方々がサポートされて伸びていくべきですね。最近よく話題にあがるSDGs によって提唱されてる目標がありますが、その中でSATO COMPANY さんがこだわっているものはありますか?
そうですね。本来はSDGs って17の目標全てを取りこぼしのないようにということだと思いますけれども、自社で使っている森林とか森林資源の利用が、いろいろな形でSDGs に貢献しています。「13 気候変動に具体的な対策を」「15 陸の豊かさも守ろう」などはストレートなテーマです。あとは作ったものをちゃんと使い切るとという意味では「12 つくる責任、使う責任」ですね。林業とか木材の活用をすることから生み出される恵みが、森林整備であったり、保全に還元されることが持続可能な大きな環境を作りだしていると思っています。私たち人間がいろいろ化石燃料等で二酸化炭素の排出をしていますが、人間の力で減らさない限り地球温暖化は止められません。戦後50年、60年たって、先人たちが私たちに資源を残すためにスギだったりヒノキの苗木を植えて、それが今ちょうど利用期を迎えている。収穫期の森林が木材としてせっかく成熟しているので、その木を積極的に使ってもらうことをパレットなどを通して参加していきたいですね。
柴田
館野さんはドイツにもいらっしゃいましたよね。日本と海外の違いはありましたか?
例えば、こみについての考え方は、日本では割と生産の方式が一方向というか、プロダクトを作ったらそれを捨てる。捨てるのにどうしようっていう流れがずっとあったと思うんですけれども、ドイツで生活しているときは、「捨てる」という言葉をあまり聞きませんでした。「捨てる」というよりはその素材だったり原材料をまた「元に戻す」っていう、木だったり枝だけも、ちゃんとそれ用に入れる場所があったりですとか、緑の瓶は緑の瓶、茶色い瓶は茶色い瓶とかで、そういうふうにちゃんと、うまく捨てるというよりはサステナブルに使っていこうっていう流れが、街全体であったかなと思いますね。
柴田
昔の日本はそんなことはなく、捨てるのではなく土に返すであり、「もったいない」「バチがあたる! (笑)」精神、地物・地産地消なんかは当たり前だったような。捨てないことが当たり前だったですが、建築で言うところの「スクラップ・アンド・ビルド」が正当化され、成長というのはどんどん使い捨てていくもんだみたいな、そんな時代にいつしかなってしまったのかもしれません。今、また取り返さなきゃいけないことかもしれないですね。
そうですね。私たちもそういった意味では、材料を仕入れるときに配送にやっぱり二酸化炭素を排出するので、そういった配送時の二酸化炭素の排出量も削減するために、会社があるところの近い森に目を向けています。実際に森に行って現場見たり、林業従事者の方から話を直接聞いたりして、森の新たな価値を捉えたものづくりをしていきたいなというふうには思っております。地産地消と言われましたけれども、一番近い東京都の中にある森の材を使うっていう「メイド・イン・東京」という材料に今、注目しております。
柴田
せっかく何十年もかけて育ててきた木を無駄なく使ってあげたいという気持ちは当然あるわけです。そういったロスをなくすることに建築家も携わり、広めたいですね。SATO COMPANY さんこそ、その提案をしていることの責任を持って行動しようとしてることが改めて分かりました。
最後に、今後柴田さんが取り組みたいテーマや作品についてお聞かせください。
柴田
今とにかく木に興味が出ています。良い建築の解答として「自由な自分らしさを大切にした家」があると思っているんです。それを知るにはナチュラルでエコな素材のほうが自分らしさを発見できると思える。逆の言い方をすると、高級なものや無機質なものでは自分らしさを発見しにくい。要するにいっそ自分で作ればわかる(笑)と。この時代において実はそれがおしゃれで美しい生活を可能にするのは素材ではないのかなと感じています。そのサポートをしていくような設計を今後していきたいし、この出会ったパレットを今後も使って発展させてみたい。パレットはエコ・ローコストでシンプルで、場合によってはほんとに素材の、まだ形になる前の「原石」のようにも僕は感じている。「アイデアの宝庫」でもあるということなんですよね。だからこそパレットを使うこと・考案することで、僕の新たなシーンが生まれるんじゃないかなという期待もしています。素材の可能性から次の時代へのステップアップを考えていこうと思っています。SATO COMPANY さんは今後、何か新しい取り組みをされていくのでしょうか。
パレットを流通のみだけでなく、今お話があったように家の中でも財産となるようなものだったり、建築素材だったり、空間演出の道具として発展させることで、人の暮らしに自然に入り込んでいくような、人がわくわくしながら、それと同時に自然環境を良くすることに参加できるようなそういった会社でいたいなと思っております。
柴田
とりまく環境のベースは、国産材を使ったパレットのように、シンプルで自然の材料や単純な形態が良いと思っているんですよ。その中でこそ自分を見つけることができる。その中でこそ、自分らしさというのをワクワクした表現をしていけるのかなと考えています。
とても共感できるお話です。本日はありがとうございました。
有限会社 アーキテクト・スタイル
柴田達志
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